慶弔と向き合う〜人の人生に寄り添う制度と心づかい

慶弔・お見舞いマナー

慶弔とは何か——人生の節目に寄り添う言葉

「慶弔(けいちょう)」とは、人の一生における**喜びごと(慶事)と悲しみごと(弔事)**を表す言葉である。漢字の通り、「慶」は慶賀・祝い、「弔」は弔意・悼みを意味する。人生には結婚・出産・昇進・入学といった祝い事があれば、同時に不幸・病気・死別といった悲しみも存在する。

この「慶」と「弔」を分けて扱うのではなく、一つの人生の流れとして支え合う文化を表現した言葉こそが「慶弔」なのである。ビジネスマナー、会社制度、そして社会的常識として「慶弔」は非常に重要な位置を占める。


慶弔費とは何か——その意味と役割

「慶弔費(けいちょうひ)」とは、企業・団体・自治会などが従業員や構成員の慶事・弔事に対して支出する金銭のことを指す。これはいわば「組織としての心づかい」であり、福利厚生の一環として扱われる。

代表的な慶弔費の支給ケース:

項目 慶弔の種類 会社・団体が支給する例
結婚祝い 慶事 結婚祝金(1〜5万円)
出産祝い 慶事 出産祝金(1〜3万円)
弔慰金 弔事 親等に応じて3〜10万円程度
災害見舞金 弔事(災害) 被災度に応じて支給
病気見舞金 弔事(療養) 長期入院時などに支給

慶弔費の読み方と使い方

読み方は「けいちょうひ」。会社規定では「慶弔金」「慶弔見舞金」とも表記されることがある。慶弔費は給与と異なり、課税対象外または非課税枠が設けられている場合もあり、支給方法や経理処理に注意が必要である。


慶弔費の実務運用——社内規定とその設計

慶弔費の支出は感情や善意に任せるだけではなく、社内ルールとして明文化されていることが重要である。以下は一般的な規定項目である:

慶弔費規定の基本項目:

  • 支給対象(本人、配偶者、子、親、兄弟姉妹など)

  • 支給額の基準

  • 通知方法(人事課への申請、上司報告)

  • 支給のタイミング(発生日後何日以内など)

  • 必要書類(結婚証明書、死亡診断書、出生届写しなど)

企業規模別の傾向:

  • 大企業:社内イントラ上で慶弔費申請フォームや自動化されたワークフローが整備されている。

  • 中小企業:社長や総務担当がケースバイケースで対応する場合が多いが、属人化を避けるためにも明文化が望ましい。


慶弔休暇とは何か——労働者の権利としての配慮

「慶弔休暇」とは、従業員に慶事・弔事が発生した際に、特別に与えられる有給または無給の休暇制度である。これは、労働基準法に基づく年次有給休暇とは別枠で設定される。

代表的な慶弔休暇の内容:

休暇の対象 日数(例)
配偶者の死亡 5〜7日
父母・子の死亡 3〜5日
祖父母・兄弟姉妹の死亡 1〜3日
本人の結婚 5日
子の結婚 1〜2日

注意点:

  • 労働基準法では強制ではないため、企業ごとに規定が異なる。

  • 弔事での「忌引き(いみびき)」もこの一種である。

  • 結婚式や葬儀などに伴う移動時間を考慮して日数が設定される。


「忌引き(いみびき)」とは——言葉と実務の意味

忌引きとは、近親者に不幸があった際に、喪に服し出社・登校を控える慣習的な休みを意味する。読み方は「いみびき」。

「忌(いみ)」とは、死者の穢れを忌み慎む意であり、「引く」は“距離をとる”こと。古来より日本には“死を遠ざける”という文化があり、忌引きはその精神を現代に残したものである。

忌引きの日数(例):

対象 日数(例)
両親・配偶者・子 5〜7日
祖父母・兄弟姉妹 3日程度
おじ・おば 1〜2日

忌引きのマナー:

  • 訃報が入ったら直属の上司・人事に速やかに報告。

  • 忌引き休暇を申請し、必要に応じて香典のやり取りや弔問を行う。

  • 学校でも忌引き制度があり、出席扱いになる。


慶弔と企業文化——“支え合い”が組織の強さに変わる

慶弔制度の整備は、単なるルールの話ではない。それは社員同士が人生の節目に対して思いやりを持つ文化の醸成でもある。

慶弔文化のある組織に見られる特徴:

  • 上司が率先して弔問・祝電を出す。

  • 慶弔休暇取得への心理的ハードルが低い。

  • 香典・見舞金を自発的に取りまとめる風土がある。

  • 「家族の幸せ・悲しみはチーム全体のこと」として共有される。

一方で、「制度があるが使いにくい」「忌引きを理由に陰口を叩かれる」など、運用面に課題を抱える企業も少なくない。


慶弔費・忌引きに関するトラブルと対応策

以下は現場で起こりがちなトラブルとその対処法である:

トラブル例と解決策:

  1. 慶弔費の支給に不公平感がある
    → 事前に支給基準を文書化し、社内で公開すること。

  2. 忌引き日数が上司の裁量に委ねられ曖昧
    → 慶弔規定を明文化し、雇用契約書にも明記しておく。

  3. 慶弔の連絡が遅れ、会社対応が後手に回る
    → 社内に「慶弔発生時のフロー」を明確に定めておく。

  4. 香典の金額がバラバラで気まずくなる
    → 社内ガイドラインとして目安を設ける(例:上司1万円、同僚3千円)


令和時代の慶弔観——オンライン弔問・祝儀の新しいかたち

コロナ禍以降、慶弔文化も大きく変わり始めた。対面での弔問や結婚式参加が難しくなり、「リモート焼香」「オンラインご祝儀」「弔電アプリ」などが浸透してきた。

また、家族葬や直葬の増加に伴い、弔問の範囲が縮小された分、組織としての“心の表現”がより重要になっている。

新時代の取り組み例:

  • 香典・祝い金の電子マネー送金

  • 社内掲示板やチャットでの訃報共有(プライバシーに配慮)

  • 慶弔ログを社内システムで自動記録

  • 休暇申請もスマホから簡便化


慶弔とは“人を思う文化”である

慶弔費や忌引き、休暇制度というのは、単なる事務手続きや制度ではない。それは、人の人生の節目に、組織や社会が“寄り添う”姿勢の表れである。

  • 誰かが結婚したら、一緒に喜びを分かち合う。

  • 誰かが大切な人を亡くしたら、静かに、でも確かに支える。

慶弔制度の整備は、そのまま「人を大切にする文化」の整備につながる。だからこそ、今一度、あなたの組織やコミュニティでの“慶弔のかたち”を見直してみてはいかがだろうか。

つばさ公益社 篠原憲文

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